抹茶と小豆のパウンドケーキ(3)

(焼き方)
さて最後の難関です。難関といっても、オーブンがこのお菓子に合っていればなんということはないのですが、おいそれとオーブンを買い替えるわけにはいかないのが難しいところです。

7.オーブンは高めの温度に設定して予熱を充分にとります。オーブンによりますが、220°~230°位、少なくとも30分は予熱しておいてください。そこへ寝かせておいた型をオーブンに対して縦になるように入れます。つまり、型の長い辺が自分の左右に、短い辺が前後になるようにです。オーブン庫内の温度を下げないよう、扉の開閉は常に手早くおこないます。
3~5分経ったら温度を160°位に下げます。それから20分位焼いて、型の前後を入れ替えます。さらに20分位焼きます。オーブンの上からの熱の当たり具合(上火)が強過ぎて表面が乾燥して固くならない限り、包丁で切り目を入れるなどする必要はありません。オーブンの温度もお菓子本体の温度もなるべく下げたくないのです。

このようなヴォリュームのあるお菓子を焼く時は、オーブンには火力が充分強いことと上火が強くなく下からの熱の当たり具合(下火)が強いことが求められます。この場合の火力とは温度のことではなく、熱量のことです。この違いは車を運転する方でしたら速度と馬力の違いだと思えば分りやすいでしょう。 
熱量が充分にないとお菓子のふくらむ勢いが弱くなります。、充分にふくらむ前に周りが乾燥して固くなり小さく締まった焼き上がりになるわけです。それを避けるためにも予熱は充分にとって熱量を確保するようにします。生地の中央を大きく窪ませて火の通りを助けてやることも重要なわけです。また、上火が強すぎると表面が先に乾燥して固くなり、ふくらもうとするのを押さえこんで同じような結果になってしまいます。
家庭用のオーブンでは温度調節はできても熱量を調節することは難しいですね。オーブンによっていちがいには言えませんが、家庭用のオーブンなら電気オーブンよりガスオーブンのほうがいいかもしれません。電気オーブンなら出来れば200ボルトのものにしたいところです。
また、コンベクションオーブンでファンの風がお菓子の表面に強く当たる場合は、なるべく風の当たりが弱くなるような場所(段)を探したり、上の段に天板を置くなどの工夫が必要になります。
色んなお菓子を焼いた時にお菓子の底より上部のほうが色付く傾向があるようでしたら、下火が弱いわけです。あらかじめ天板をオーブンに入れて熱くしておく、途中で上の段に天板を置くなどして対処します。逆に底のほうがどうしても焦げるといった場合には途中で天板をもう一枚下に敷くなどして対処します。オーブンによって様々ですので、そのオーブンに応じたいい方法を探していくしかありません。
温度や焼き時間もオーブンによって様々ですので、何度で何分と言い切ることはできないのです。

(焼き上がり)
8.焼けるにしたがってふくらみ、表面の中央に縦に割れ目が出来て、中央が広がるように盛り上がり、その部分が少し色づくまで焼きます。その中央部分を押してみて充分な弾力を感じ、表面の湿った感じがなくなったら焼き上がりです。
金串等をつきさしてみて何もくっついてこなければいいという見方は、火が通っているかどうかの見極めにはなりますが、その焼き加減でいいかどうかは、最終的には食べてみるしかありません。ふくらみ具合、焼き色、弾力等々、あらゆることを確認して、そして食べてみて判断して次に生かし、調整しながら、そうして一番いい焼き方、焼き加減を見つけていくわけです。
オーブンから取り出し、2~3分待ってから型から取り出します。網にとって、型紙をつけたまま冷まします。シロップやお酒などを塗る場合は熱い内に塗ってください。熱い内のほうが中にしみこみやすいからです。
冷めたらビニール袋などに入れ密封して乾燥を防ぎ、暗い所に置くか、箱や缶に入れて光が当たらないようにして常温で保存します。一日置いてからが食べごろです。

説明してきましたように、パウンドケーキをおいしく作るには、まず強い乳化の状態を作ること、そしてグルテンを極力出さないよう粉を混ぜること、それから、冷蔵庫で寝かせて焼くこと、あとはオーブンの使い方、これらのことが最も大事なこととなります。
パウンドケーキ作りには基本となる4つの主材料の性質、乳化のこと、温度のこと、混ぜるということ、手を加えることによる材料の変化の見きわめ、オーブンの使い方など、お菓子作りに重要な基礎の多くが含まれています。
パウンドケーキがうまくできるようになれば、お菓子作りの基本の重要な部分が分かったと言えると思います。外国語学習に例えて言えば、基本単語数百をマスターしたようなものでしょう。その後の進歩は格段のものになると確信します。