パウンドケーキが一番難しい

 パウンドケーキは簡単だと思われています。材料はシンプルだし、バター、砂糖、卵、粉をただ順番に混ぜていくだけだし。お菓子作り初心の人がまず作ってみようと思うものがこのパウンドケーキのようです。

でも、実はパウンドケーキが最も難しいお菓子の一つなのです。

何が難しいって、乳化です。このただ順に混ぜていくだけの方法はシュガーバッター法と呼ばれます。シュガーバッター法によるパウンドケーキの作り方では、乳化がすべてといっていいくらい、乳化が決め手なのです。乳化がうまくいかなければおいしいものにはなりえません。

この乳化が難しいのです。バターと砂糖を混ぜたところに卵を加えて混ぜ、分離しないよう乳化させるのがとにかく難しいのです。シンプルなだけに融通もきかないし、途中修正もできません。 

そもそも水と油は混ざりません。卵は水分が多く、バターは脂肪分がほとんどです。それをいわば騙し騙し混ぜていくのだから簡単ではないのです。

乳化させるのが難しい原因は多くは混ぜ方によるものと思われています。えーっ、作り方・技術のせいじゃないの?そうなんです。それは2番目の原因です。
1番目の原因は材料の品質によるものです。バターと卵の品質の問題です。

まずバターです。
これまで手に入って試したバターのほとんどは乳化力がとてもよくありません。その理由ははっきりしません。
バターには約2割の水分が約8割の脂肪分と乳化した状態で混ざっていますが、そのバターの乳化の状態がそもそもあまりよくないのではないかと考えられます。あるいは、バターの脂肪分はたくさんの種類の脂肪酸で構成されていますが、その脂肪酸の構成バランスがよくないのではないかとも考えられます。

次に卵です。
今普通に安価に買える卵では、やはり乳化がとても難しいのです。
卵の水分含有量が多すぎるのかもしれません。あるいは、卵黄の中にはレシチンという乳化剤の働きをする成分が含まれていますが、そのレシチンの働きが弱いのかもしれません。
このようなバターと卵では誰がやっても、どんなに完璧な混ぜ方をしたとしても、乳化は困難です。分離させてしまう確率は高いものです。 

では、どうしたらいいのか? 

もう何十年も前、フランスから戻ってきてしばらく経った頃のことです。パウンドケーキやアーモンドクリームなど、バターに等量の卵を混ぜるものがことごとく分離をしてしまい、途方に暮れたことがあります。

フランスではそんな経験がなかったからです。混ぜ方など特に気にすることもなく、分離などすることもなく、簡単に混ぜられていたからです。

いったいどうしたことか? 

乳化とはそもそも何か?そこから出発して混ぜ方を工夫してみました。(混ぜ方の詳細は旧記事をご覧ください。)でも混ぜ方を完璧にしても、それでも分離させてしまうことはままあります。
混ぜ方は大事ですが、たくさんの試作をしていく中で、フランス産のバターを使い、卵の品質のいいものを選んだら、比較的簡単に乳化させられることがわかりました。やはり材料が大事なのです。
それにしてもこれでは随分高くつくものになってしまいます。 

もう一つの方法は作り方を変えてみることです。

パウンドケーキの作り方には、この、順にまぜていくだけのシュガーバッター法だけでなく、共立て法や別立て法もあります。

共立て法は卵と砂糖を泡立ててから粉と溶かしバターを混ぜる作り方をします。これは失敗の少ない方法で、お菓子作り初心の人には一番のおすすめです。
別立て法はいくつかありますが、卵白を泡立てて混ぜる作り方をします。これは卵白の泡立て方と混ぜ方にやや難度の高い方法となります。
これらの作り方なら、乳化は問題とならず、明らかな失敗となることは少なくなるでしょう。