チョコレートのテンパリング




テンパリング(tempering)とはチョコレートの温度調節のこと。ボンボン・ショコラや板チョコ、チョコレートの飾りなどを作る時に、照りよく、型離れがよく、また、心地よい歯ざわりの口どけのいいチョコレートを作るために必要な温度調節のことですね。

テンパリングは難しいとされているようですが、実はちっとも難しくはありません!
ただ、私たちにはひとつ問題があります。それは、たまにしかチョコレートを作らないということです。ショコラティエのように、チョコレートを毎日のように扱っているなら、ただ慣れることだけでもテンパリングはできるようになるでしょう。こうやって、こうやって、これくらいならいいと、いわゆる勘を磨きながら熟練していけば出来るようになるものでしょう。

しかし、たまにしかやらない者には、熟練も勘も期待できません。そこで必要なことは「理解」ということです。
お菓子つくりは科学、といえる部分が多いのですが、チョコレートのテンパリングの作業はまさに科学です。理屈を完璧に理解すれば、少しも難しいものではなくなります。

えっ?嘘!と思われるかもしれませんが、巨大な工場でのテンパリングを想像してみてください。そこでは機械がほとんどすべてを行ないます。ひとの手の熟練や勘は入り込む余地もありません。100パーセント科学だといっても過言ではないのです。そこから、スーパーマーケットに並んでいるようなピカピカの美しいチョコレートが送り出されているのです。

では、手作りの場合、なぜ失敗するのでしょう。なぜ難しいといわれるのでしょう。そのことを解き明かしていきましょう。理屈を完璧に理解し、なぜ失敗するのかが分れば、本当にテンパリングは難しくもなんともないのです。


テンパリングはフランス語ではクリスタリザシヨン(cristallisation)=結晶化と呼ばれます。温度調節を表すタンペレ(temperer)という言葉も使われますが、温度調節は手段であって、目的は結晶化なのです。あとで説明しますが、実は、この認識はとても大事です。
チョコレートは結晶化によって固まります。同じ温度でも溶けていたり、固まったりします。温度が正しくても、結晶化はうまくいったり、そうでなかったりします。大事なのは温度ではなく、結晶化なのです。

テンパリングとは、とインターネットで検索すれば、その理論や方法などたくさん出てきます。
おおざっぱにいうと、チョコレートは結晶の固まりとなってできていますが、その結晶を構成する脂肪分=脂肪酸にはいくつもの種類があって、それぞれに溶ける温度が違い、結晶になったときの結晶の大きさや安定性が違います。チョコレートの全体を小さく安定性のいい種類の結晶に揃えることで、いい状態のチョコレートになるわけです。その作業を結晶化といいます。その手段として温度調節をするわけです。


手作りで主に行われるテンパリングの方法は、たとえばブラックチョコの場合、チョコレートによっても多少違いますが、チョコレートを50°~55°に溶かし、27°~28°に冷やし、31°~32°に温めて使用するというものです。
本やネット上にはその理論や、やり方や細かい注意もたくさん載っています。それではと、温度計を使って細かい注意も守ってこの通りにやれば、初心者でも誰でもうまくいくはずではないか。ところがほとんどの場合失敗してしまう。だからテンパリングは難しい、と言われてしまうのです。

なぜ?

繰り返しになりますが、なぜ失敗するのかがわかれば、テンパリングは難しくもなんともありません。そのために必要なことは、結晶化ということ、そしてもうひとつ、熱の伝わり方ということ、この2つのことを完璧に理解することなのです。


テンパリングは、工業的にはまた違ったやり方をするようですが、手作りの場合、主に次の3つの方法があります。

1.シード法と呼ばれるもので、溶かしたチョコレートに細かくきざんだチョコレートを加えていく方法。
簡単なやり方なのですが、これには、加えるチョコレートが完璧にいい状態に結晶化されたものであることが条件となります。一般家庭など設備のないところで、いつもいい状態にチョコレートを保存しておくこと(温度変化のないところで温度15°~20°、湿度50%以下)は困難と言えます。

ごくわずかの量のチョコレートなら電子レンジでテンパリングする方法もありますが、これも同じ理由であまりお勧めできません。

2.溶かしたチョコレートをマーブル(大理石)台で冷やしていく方法。
これには少なくとも1㎏以上のチョコレートで行なうことが必要であり、かつ、室温が18°~22°を保てないとなかなか難しくなります。
室温が高くてマーブル台が温まっていると、チョコレートが冷えるのにとてつもない時間がかかってしまいます。室温が低いとチョコレートの一部がすぐに固まってしまい、うまくいきません。

3.溶かしたチョコレートのボールを水につけて冷やしていく方法。
300g~500g位の少量のチョコレートなら最適の方法だといえます。

もちろん、慣れたひとなら、状況に応じてどの方法でもできることなのですが、たまにしかチョコレートを扱わない、そんなに大量のチョコレートを扱うのが現実的ではない私たちには、3番目の方法が最もいいのではないかと思います。



それでは、具体的にテンパリングの方法を説明しながら、なぜ失敗するのか、どこに気をつけたら失敗しないのかを解明していきましょう。

まず、チョコレートはクーヴェルチュールと呼ばれるもので、カカオ分55%~70%位のブラックチョコレートを使います。分量は300g~400g。慣れるまではいつも同じものを同じ分量使うのがいいと思います。

ボールは18-10ステンレスのボールが電子レンジでも使えて便利です。また、よくある18-8の薄いステンレス・ボールに比べて、熱の伝わり方がゆるやかでいいと思います。18-10のものがなければ、プラスチック・ボールなどを使って、所定の温度に溶かしたらステンレス・ボールに移し替えるといいでしょう。大きさは300g~400gのチョコレートに対して、直径20㎝位のものを使います。

また、それに合わせて、直径18㎝位の鍋を用意しておきます。
混ぜる器具は、ボールをきれいにこそぐことができるので、ゴムべらがいいと思います。
温度計は非接触温度計がいいでしょう。素早く何度でも測れて便利です。
それから、10°位の冷水と乾いた布巾が必要です。冷水がなければ、氷のかけらなど加えて調節します。

室温及び湿度を完璧にコントロールすることは難しいので、室温はせめて15°~25°の間になるようにし、除湿が充分できなければ、雨の日や梅雨時は避けたほうがいいでしょう。


テンパリングの作業は3段階に分かれます。第1段階はチョコレートを50°~55°に溶かす、
第2段階はこれを27°~28°に冷やす、第3段階はこれを31°~32°に温める、というものです。適切な温度はチョコレートによって異なりますので、分らなければメーカーか材料の専門店などに直接聞いて確かめておきます。

どこで失敗するのか、結論から先に言っておきます。必要な注意を守ってさえやれば、第1段階、第2段階で失敗することはほとんどありません。テンパリングのほとんどの失敗は第3段階でおきてしまいます。不思議なことですが、このことはあまり言及されていません。


〈第1段階〉 この段階では、まずチョコレートのすべての結晶を完全に溶かしてあげるのが目的です。
ボールにきざんだチョコレートを入れて温め、混ぜて溶かします。コイン状のチョコレートなら、きざむ必要はありません。
溶かすのは湯せんでもいいのですが、チョコレートは湿気を嫌いますので、部屋に湯気があがるのはあまりいいことではありません。少量の場合、お勧めは電子レンジです。いきなりレンジで溶かしても構わないし、オーブンの発酵機能を使ったり、オーブンを止めたあとの余熱を使ったりして、まず温めておけば、より楽にできます。
レンジはできれば500W~300Wがいいと思います。ワット数が大きいと焦がしやすくなります。レンジを使う場合、チョコレートを焦がさないよう、特に気をつけてください。
レンジにもよりますが、30秒おき位に頻繁に取り出してはよく混ぜて、そのたびに温度を測りながら50°~55°に溶かします。ゴムべらにくっついているチョコレートもカードなどで削り落として、よくよく混ぜて均一に溶かします。
55°以上にしないことと、焦がさないことだけ気をつければ、この第1段階で失敗することはあまりないでしょう。


〈第2段階〉次に、このチョコレートの温度を27°~28°に下げて、結晶を最も安定性のいい種類の結晶に揃える作業です。
50°~55°に溶かしたチョコレートのボールを、冷水を入れた鍋につけて混ぜながら冷やしていきます。前述のボールと鍋を使った場合、水の量は鍋の高さの1/3位、ボールの底の部分だけが水に触れる程度です。鍋の上部とボールとが密着して固定し、水はボールの側面まではあがってこない状態です。この状態だと水滴がチョコレートにはいる心配があまりありません。ボールの底の部分だけが冷える、側面はあまり冷えない、少量のチョコレートの場合は、この状態がやりやすいと思います。
水の温度は13°~15°を保てる位がいいのですが、溶かしたチョコレートのボールをつければ、当然水の温度は上がっていきますから、10°位の水を使います。最終的には20°位まで上がるでしょうが、それで構いません。

混ぜ方です。ボールを水につけて冷やしながら混ぜるわけですが、ぐるぐると勢いよく混ぜてはいけません。空気が入って、出来上がりのチョコレートを口どけの悪いものとしてしまいます。冷やされた底の部分をまんべんなくゴムべらでこそげとり、その上部にあるチョコレートと入れ替えるような混ぜ方です。側面もぐるりとこそげながら混ぜます。こうした混ぜ方を繰り返していきます。底の冷やされた部分を固めてしまわないよう注意します。
ひんぱんに温度を測りながら、30°を下まわったら、ボールをいったん取り出します。ボールの底を乾いた布巾でよくふきます。くれぐれも水滴をチョコレートに入れないよう、注意してください。ボールは乾いた布巾の上に置いて、同じ混ぜ方を繰り返しながら、温度が28°になれば結構です。もし温度が下がらないようなら、一瞬水につけて繰り返します。
これで、第2段階はほぼ終わりです。この段階でも失敗することはあまりないと思います。


次に、これでいいかどうかを確かめます。いい結晶ができ始めて、時間とともに少しずつ濃度がついてきます。冷えて固まるというより、結晶化して固まる、この認識が大事です。ボールの底とまわりをこそげながら、ゆっくりゆっくり混ぜます。混ぜるのが目的ではなく、この少量のチョコレートでは、ボールに接触している部分がすぐに固まってしまうのを避けるためです。

段々に、そしてある段階で急速に濃度が強く重たくなってくるのが分ると思います。少量なのでそんなに時間はかかりません。
慣れないと分りにくい部分かと思います。でも、気にすることはありません。少し待てば、あぁ、ほんとにすごい濃度がついてきたなという瞬間が必ず分ります。慣れてくるにしたがって、このタイミングを少しずつ前にしていけばいいことです。温度は1°~2°下がります。

濃度が強くなったら、すぐに温めます。ボールをガスの火にかざします。ボールを両手に持って火の上のほうで回す感じです。3~4秒ではずし、ゴムべらで混ぜます。この時、いきなりぐるぐると勢いよく混ぜるのは厳禁です。少し待って中心から、ゆっくりと混ぜます。チョコレート全体の温度が均一になるよう混ぜる、これは基本です。均一に混ざったら、温度を測って28°~29°になっていれば結構です。

これでテンパリング(結晶化の作業)は終わりです。このまま時間がたてば、固まって、きれいなピカピカのチョコレートが出来上がるはずです。


〈第3段階〉テンパリングしたチョコレートの温度を31°~32°にして使いやすい状態にします。チョコレートにもよりますが、33°を超えると、いい結晶化の状態はこわれていくからです。
第2段階まででチョコレートのテンパリングは終わっているわけですが、28°~29°の状態では濃度が強すぎて、そのまま型に流したり、薄く延ばしたりしても、平らにならなかったり、延びが悪かったりして、このままでは使えません。それで、このチョコレートをほんの少し温度を上げて、濃度をゆるくしてあげるわけです。
室温が低かったり、冷やす段階での見極めが遅いタイミングであったりした場合は、小さなチョコレートの固まりが混ざってしまうことがありますが、気にすることはありません。クーヴェルチュールは31°で溶けることになっていますから、いずれ溶けてしまいます。大きな固まりでなかなか溶けないものがあれば、それだけ取り除けば問題ありません。

繰り返しになりますが、第2段階の最後の工程から、この第3段階において、一度27°~28°に温度を下げたものを再び温めて温度を上げる時点、この時点でこそ、ほとんどの失敗が起きてしまうのです。これまでの説明はいわば前置きみたいなもの、ここからが本番だと思ってください。



なぜ指定通りの温度にしても失敗するのか?ここからが、「結晶」と「熱の伝わり方」についての「理解」が必要なところです。

前述しましたように、ボールをガスの火にかざして温めるということをします。少量のチョコレートを再び温めるのに湯せんを使うのは、慣れてない人には失敗の大きな要因になります。お湯の熱量は大きく、非常に伝わりやすいという性質があるからです。
熱を急に伝えると、いい状態の結晶化はこわれやすくなります。この理由から、混ぜながら温めることは、最も大きな失敗の原因となります。ほんの少し温めてから、そののちに混ぜるのです。

想像してください。ボールの中には最もいい状態に結晶化していく溶けたチョコレートがあります。このチョコレートをほんの少しゆるくして、使いやすい状態にしたいわけです。

ボールをほんの少し温めます。するとボールに接している部分のチョコレートは過度に溶けて、当然その部分のいい結晶化状態はこわれてしまいます。しかしその内側にある部分は、過度に溶けた部分に比べて圧倒的に多くの量のチョコレートが、いい結晶化を保ったままの状態にあります。
これを中心からゆっくりと、底と周りの過度に溶けた部分の熱が急激に伝わらないよう、ゆっくりと混ぜていきます。ゴムべらが1秒間に2周するくらいのゆっくりとした混ぜ方です。
すると、中の部分の結晶が周りの部分を取りこんで、全体をいい結晶に揃えて結晶化していくわけです。これが結晶の性質を利用した方法なのです。
結果として、いい結晶化の状態を保ったまま、全体のチョコレートの温度が少し上がり、ゆるくなるわけです。1回温めるごとに1°位ずつ上げていきます。これを繰り返して使いやすいゆるさにしていくわけです。

いい結晶化状態の部分が過度に溶かした部分を取りこんでいくか、逆に、過度に溶かした部分がその内側のいい結晶化状態の部分をこわしてしまうかは、いわば力関係のようなイメージです。
周りの部分の力を増大させない溶かし方、混ぜ方が必要です。温め過ぎて熱量を多くしないことと、その熱量を急激に伝えさせない混ぜ方が要求されるのです。



最後に整理をしておきます。
テンパリングの失敗の最も大きな原因は、工程順にいうと、3段階の最後の再び温める段階において、
1.湯せんにつけて温めること
2.混ぜながら温めること
3.温め過ぎること
4.急激に混ぜること
となります。

もちろん、言葉だけではわかりにくい部分も多々あるでしょう。初めてチョコレートのテンパリングをしようとする方は、できる人に一度は教わってください。教わったことがあるけど、どうもうまくいかないという方は、この結晶化と熱の伝わり方についてとことん理解をしたうえで、再度挑戦してみることをお勧めします。


抹茶と小豆のパウンドケーキ(3)

(焼き方)
さて最後の難関です。難関といっても、オーブンがこのお菓子に合っていればなんということはないのですが、おいそれとオーブンを買い替えるわけにはいかないのが難しいところです。

7.オーブンは高めの温度に設定して予熱を充分にとります。オーブンによりますが、220°~230°位、少なくとも30分は予熱しておいてください。そこへ寝かせておいた型をオーブンに対して縦になるように入れます。つまり、型の長い辺が自分の左右に、短い辺が前後になるようにです。オーブン庫内の温度を下げないよう、扉の開閉は常に手早くおこないます。
3~5分経ったら温度を160°位に下げます。それから20分位焼いて、型の前後を入れ替えます。さらに20分位焼きます。オーブンの上からの熱の当たり具合(上火)が強過ぎて表面が乾燥して固くならない限り、包丁で切り目を入れるなどする必要はありません。オーブンの温度もお菓子本体の温度もなるべく下げたくないのです。

このようなヴォリュームのあるお菓子を焼く時は、オーブンには火力が充分強いことと上火が強くなく下からの熱の当たり具合(下火)が強いことが求められます。この場合の火力とは温度のことではなく、熱量のことです。この違いは車を運転する方でしたら速度と馬力の違いだと思えば分りやすいでしょう。 
熱量が充分にないとお菓子のふくらむ勢いが弱くなります。、充分にふくらむ前に周りが乾燥して固くなり小さく締まった焼き上がりになるわけです。それを避けるためにも予熱は充分にとって熱量を確保するようにします。生地の中央を大きく窪ませて火の通りを助けてやることも重要なわけです。また、上火が強すぎると表面が先に乾燥して固くなり、ふくらもうとするのを押さえこんで同じような結果になってしまいます。
家庭用のオーブンでは温度調節はできても熱量を調節することは難しいですね。オーブンによっていちがいには言えませんが、家庭用のオーブンなら電気オーブンよりガスオーブンのほうがいいかもしれません。電気オーブンなら出来れば200ボルトのものにしたいところです。
また、コンベクションオーブンでファンの風がお菓子の表面に強く当たる場合は、なるべく風の当たりが弱くなるような場所(段)を探したり、上の段に天板を置くなどの工夫が必要になります。
色んなお菓子を焼いた時にお菓子の底より上部のほうが色付く傾向があるようでしたら、下火が弱いわけです。あらかじめ天板をオーブンに入れて熱くしておく、途中で上の段に天板を置くなどして対処します。逆に底のほうがどうしても焦げるといった場合には途中で天板をもう一枚下に敷くなどして対処します。オーブンによって様々ですので、そのオーブンに応じたいい方法を探していくしかありません。
温度や焼き時間もオーブンによって様々ですので、何度で何分と言い切ることはできないのです。

(焼き上がり)
8.焼けるにしたがってふくらみ、表面の中央に縦に割れ目が出来て、中央が広がるように盛り上がり、その部分が少し色づくまで焼きます。その中央部分を押してみて充分な弾力を感じ、表面の湿った感じがなくなったら焼き上がりです。
金串等をつきさしてみて何もくっついてこなければいいという見方は、火が通っているかどうかの見極めにはなりますが、その焼き加減でいいかどうかは、最終的には食べてみるしかありません。ふくらみ具合、焼き色、弾力等々、あらゆることを確認して、そして食べてみて判断して次に生かし、調整しながら、そうして一番いい焼き方、焼き加減を見つけていくわけです。
オーブンから取り出し、2~3分待ってから型から取り出します。網にとって、型紙をつけたまま冷まします。シロップやお酒などを塗る場合は熱い内に塗ってください。熱い内のほうが中にしみこみやすいからです。
冷めたらビニール袋などに入れ密封して乾燥を防ぎ、暗い所に置くか、箱や缶に入れて光が当たらないようにして常温で保存します。一日置いてからが食べごろです。

説明してきましたように、パウンドケーキをおいしく作るには、まず強い乳化の状態を作ること、そしてグルテンを極力出さないよう粉を混ぜること、それから、冷蔵庫で寝かせて焼くこと、あとはオーブンの使い方、これらのことが最も大事なこととなります。
パウンドケーキ作りには基本となる4つの主材料の性質、乳化のこと、温度のこと、混ぜるということ、手を加えることによる材料の変化の見きわめ、オーブンの使い方など、お菓子作りに重要な基礎の多くが含まれています。
パウンドケーキがうまくできるようになれば、お菓子作りの基本の重要な部分が分かったと言えると思います。外国語学習に例えて言えば、基本単語数百をマスターしたようなものでしょう。その後の進歩は格段のものになると確信します。


抹茶と小豆のパウンドケーキ(2)

(グルテンを出さない)
4.卵がすべて充分強い乳化状態で混ざったら、次にふるっておいた粉類を混ぜます。乳化の次に大事なことはいかにグルテンを出さないかということです。
「グルテンを出す」とは変な言い方ですが、小麦粉に含まれる蛋白質に水分が作用して、混ぜる、こねるなどの力が加わることによって、粘りと弾力のあるグルテンが形成されることを、ここでは「グルテンを出す」と言うことにします。

パウンドケーキの場合、グルテンが過度に出ると焼き上がりの生地に「ひき」が出ます。噛む歯と顎に力がいるようになり、また口どけが悪くなります。口どけが悪いと味も希薄になってしまいます。パウンドケーキの優しい歯ざわり、心地よい口どけ、粉やバターなどのシンプルな材料のその味わいをなくしてしまいます。また、焼き縮んで固くなる原因にもなりますし、ひどい場合には出来そこないのパンのようになってしまいます。
粉を加えてただ混ぜるだけでもグルテンは出ます。グルテンを極力出さないように粉を混ぜる必要があります。グルテンが出るには水分と力が必要なのですから、水分と力の影響を出来るだけ与えないようにしなければなりません。
そのためにもまず乳化が最も大事です。バターに卵まで混ぜ終わったものが充分強く乳化していれば、水分は脂肪分によって包みこまれているわけですから、粉に対する水分の影響が少なくなり、グルテンが出にくくなります。乳化が不充分であれば分離している水分によってグルテンが非常に出やすくなります。
バターや卵が泡立ってしまって乳化しているように見えているだけ、あるいは少量の粉でつないで乳化しているように見えているだけでは駄目だということがお分りでしょう。

グルテンは温度が低いほど出にくいということがわかっていますので、粉類は冷蔵庫で冷やしておきます。

乳化がうまくいっていれば、次は混ぜ方です。粉に出来るだけ力を与えない、負荷を加えない混ぜ方をしてあげなければなりません。粉類は一度に加えます。少しずつ加えて混ぜると、粉を混ぜ終わった時には、最初の段階で混ぜた粉は混ぜ過ぎの状態になっているわけですから。
固さのあるものに混ぜるときは、粉は原則一度に加えます。水分の多いもの、液状のものに混ぜるときは、一度に加えると粉のだまが出来て混ざらなくなるので、例外的に何度かに分けて加えて混ぜるわけです。
 
粉を一度に加えたら、へらで切り混ぜます。決して練ったりこねたりしないようにします。乳化して混ざっているバター、砂糖、卵の固まりを切り分けるように混ぜます。この固まりを小さく寸断していく、その寸断された小さなかたまりに粉がくっついて混ざっていくイメージです。
これが大きな団子になっていかないよう、小さく小さく分かれていくように混ぜます。粉はボールの底に沈んで混ざりにくくなりますから、時々ボールの底にたまった粉を大きくすくいあげて上に持ってくるようにします。
粉の8割位が混ざっていくと、固まりどおしがくっついて大きな団子になろうとします。そして細かく切り分けることができなくなります。そうなったら、全体を2つに切って上下を入れ替えるような混ぜ方をします。
粉の白いのがちょうど見えなくなったらストップです。くれぐれも混ぜ過ぎないよう、へらを当てる回数が少なくて混ざるほどいいと思ってください。このあとなお小豆を加えて混ぜますので、本当にぎりぎりの混ぜ方でいいのです。つやが出るほど混ぜてはいけません。
まだもう少し混ぜたいかなと思うくらいのところで小豆を加えて、やはり切り混ぜます。もう出来るだけ混ぜない、小豆が全体に散らばるだけでいいのです。

乳化が完璧にいっていれば、粉に水分が影響せずにグルテンは出ないのではないかと思われますが、現実にはやはり混ぜ方が悪いと違いが出ます。いかにグルテンを出さずに均一に混ぜるかが腕の見せどころかもしれません。
 
(型入れ)
5.混ぜ終わったら直ちに型に入れます。340g量って入れます。残りの生地は小さなカップなどに小分けして焼くといいでしょう。
型に入れたら、中央を大きく窪ませることが重要です。型の底と4つの壁に2㎝位の厚みの生地がある感じです。つまり小さなパウンド型が中にすっぽり入るくらいに窪ませます。「エーッそんなに!」というほどです。
なぜそんなに窪ませるかというと、火の通りをよくするためです。小さな型で焼く場合はその必要はありませんが、大きな型で焼く場合はどうしても火の通りが悪くなってしまいます。中央を大きく窪ませないと、中心まで火が通らない内に外側が焼き固まってしまい、中からふくらもうとするのを押さえこんでしまいます。ふくらみが悪くなって固く締まったような焼き上がりになりがちだからです。

(寝かせる)
6.型入れしたら必ず冷蔵庫で寝かせます。決してすぐに焼かないでください。混ぜ終わった生地は充分な乳化をさせ、粉の混ぜ方に注意をしたとしても、やはり多少のグルテンは出ているでしょう。それを寝かせることによって落ち着かせます。少し時間をおくとグルテンの結びつきが弱くなる性質を利用するわけです。
寝かせずにすぐ焼くと、やはり「ひき」が出て口どけも悪くなります。また、結果として中の生地にむらが出来たり、大きな気泡が所々に出来てきめの粗いものになったりしがちです。
冷蔵庫で寝かされ冷やされることによって、生地は落ち着きグルテンはゆるみます。強く乳化したバターは水分を抱えこんだまま冷やされて固くなり、安定した乳化の状態を保ちます。
寝かせる時間は少なくとも3時間くらい、半日でも1日でも結構です。乾燥しないように密封して冷蔵庫に入れておきます。
この頃のベーキングパウダーはすぐ焼かないとふくらみが悪くなるなどということはないようです。何の問題もありません。

また、このように生地に小豆を入れたり、あるいはレーズンなどのフルーツなどを入れた時に、それが底に沈んでしまったという話をよく聞きます。乳化がうまくいっていて、冷蔵庫で充分に寝かせたものであれば、そんなことは起こりえません。フルーツ等に粉をまぶすなども、全く必要ないのです。
混ぜ終わったばかりの生地は温度が上がっていて柔らかくなっています。すぐにオーブンで温められるとバターはすぐに溶けだそうとします。その上に乳化がうまくいっていないと、脂肪分と水分が分離している状態で温まるわけですから、軽い脂肪分は上に浮こうとし、重い水分は下に沈もうとします。それに引きずられてフルーツ等の重いものは底に沈むのではないかと考えられます。

(次回に続きます。)


抹茶と小豆のパウンドケーキ(1)




抹茶と小豆のパウンドケーキ。こういう和素材のケーキは滅多に作りませんが、思うところあって作ってみました。

小豆の香りは心地よいものですが、強い香りではないので、抹茶の強い香りに消されてしまって、何がはいっているのだか分らない味になってしまいます。かといって抹茶の量や風味をおさえれば、今度は色ばかりで抹茶を使う意味が分らなくなってしまいます。バランスをとって味を創り出すのがなかなかむずかしいケーキですね。

また、渋みはケーキに合わないので、注意が必要です。渋みは他の味を消してしまいます。何か食べたあと、口の中をリセットする、さっぱりさせる効果があります。ですから、何かと組み合わせる場合は相手の味わいを消してしまいがちなのです。
フランス菓子でも白ワインやシャンパンをお菓子に使うことはあっても、渋みのある赤ワインを使うことはあまりありません。数少ない例として、洋なしやプラムの赤ワイン煮や赤ワインゼリーなどがありますが、その場合も渋みの少ない赤ワインを使うことがポイントとなります。
抹茶のケーキも渋みの少ない抹茶を使うことがポイントとなりそうです。生クリームや蜂蜜やチョコレートなどを使って渋みをやわらげてあげるほうがいいかもしれません。

(作り方)
作り方はシンプルなパウンドケーキと何ら変わりません。

発酵バター       110g  よつ葉発酵バター
微細グラニュー糖   105g
はちみつ           5g
卵黄                40g
卵白                            70g
薄力粉                      120g  ドルチェ/江別製粉
ベーキングパウダー    3g  ローヤル
抹茶                        7~8g
ゆで小豆      120~150g  (水切り後重量)

シュガーバッター法で作ります。バター、砂糖、卵、粉の4つの主材料を順にまぜていくだけです。
ポイントは2点です。一つ目はバターの乳化をこわさずに砂糖と卵を混ぜること、これが最も大事です。そして二つ目は粉のグルテンを出さないように混ぜること。とにもかくにもこの2点を完璧にすること、これがパウンドケーキをおいしく作るコツです。

(下準備)
1.まず下準備です。
ゆで小豆はざるなどにあけて水気をよく切っておきます。
卵はよく溶いて常温に戻しておきます。バターも常温に戻しておきます。温かい所に置くなどして、やや高めの23°~25°にしておきます。バターは決して溶かさないようにしてください。室温は20°~25°が適温です。室温が15°以下、27°以上ではうまくいきにくいと考えてください。
冷暖房の風は直接あたらないよう注意します。
薄力粉とベーキングパウダーと抹茶をよく混ぜてふるい、冷蔵庫に入れておきます。
パウンド型(長さ15cm、幅8㎝、高さ6cm、容量600cc)にグラシン紙などの型紙を敷きこんでおきます。

(とにもかくにも乳化が大事)
2.ボールに入れた適温のバターを木べらで混ぜてクリーム状にします。ホイッパーではなく木べらです。固くしっかりしたものであればゴムべらでも結構です。クリーム状になったら砂糖とはちみつを加えて混ぜます。泡立ててはいけません。
バターの中には8割位の脂肪分と2割位の水分があります。油中水滴型の乳化といいますが、脂肪分が水滴を包むような格好で、脂肪分は切れずにどこもつながっている状態で水分をかかえこんで乳化をしています。
バターを泡立ててしまうと、この脂肪分の中に空気が入り込んで膨張し、空気がはいればはいるほど脂肪分のつながりは引き伸ばされて薄く薄くなってしまいます。乳化が弱くこわれやすくなっていくわけです。その段階では乳化を保っていても、次に加える卵の水分を抱え込みにくくなって、乳化がこわれやすくなってしまいます。
バターも泡立てませんし、砂糖を加えてからも泡立てません。時間をかけてただよく混ぜるだけです。スタンドミキサーやハンドミキサーを使う場合は速度がかなり遅いことが条件です。速度が速いと泡立ってしまいますので、速度が遅くならないミキサーなら、手で混ぜてください。
パウンドケーキの作り方はいくつかありますが、この作り方ではベーキングパウダーでふくらませますので、バターも卵も泡立てる必要はないのです。

3.砂糖が充分に混ざったら卵を少しずつ加えて混ぜます。慣れない内は10分の1くらいずつ加えて混ぜるのがいいでしょう。
ここが最大のポイントです。少しの卵を加えたら、木べらで混ぜていきます。やはり泡立てないように混ぜます。乳化させる混ぜ方は言葉ではなかなか伝えにくいのですが、この加えた卵にバター全体をいきなり混ぜるのではなく、卵を少しずつ少しずつバターで包み込むような混ぜ方をします。

バターに卵が取りこまれて乳化すれば、表面はなめらかになり、混ぜる手に重さ、固さを感じるようになります。加えた卵の内のほんの少しがバターに取りこまれて乳化したその部分に、また少しの卵が取りこまれて乳化し、、そうして次々に乳化しながら混ざっていくような混ぜ方です。
乳化していない部分にさらに卵が混ざろうとすると、乳化が弱くなったり、乳化がこわれて分離したりするわけです。卵にバターを混ぜるのではありません、バターに卵を混ぜるのです。

そうして加えた卵が完全に乳化してから、次の卵を加え、同様に混ぜていきます。
注意するべきは温度と混ざったものの固さです。混ざったものは室温の影響を受けて温度が下がったり上がったりします。混ざったものの温度が20°より下がっていくようであれば、次に加える卵を湯せんにつけて温めて加えます。室温が低ければ、卵の温度は27°位までは温めて大丈夫です。もし混ざったものの温度が25°より上がっていくようであれば、卵の温度を逆に下げてあげなければなりません。その場合は20°くらいまでは下げて大丈夫です。
いずれにしても、乳化して混ざったものが急に固くならないか、あるいは急に柔らかくならないかなどに細心の注意をはらって、卵の温度を調節しながら混ぜていきます。
温度を調節するために、混ぜているボールのほうを温めたり冷やしたりするのは避けたほうがいいでしょう。バターは一部分でも過度に温まったり冷えたりすると乳化を悪くするからです。
いずれの段階でもバターは決して溶かさないでください。いったん溶けたバターは再び固まっても良い乳化の状態に戻ることはありません。
パウンドケーキのように、バターと卵が同じ分量である場合は完璧に乳化させるのは簡単ではありません。正しい混ぜ方を知らなければ、ほとんどの人が分離させてしまうくらいむずかしいものです。しかし、この乳化がうまくいけば、パウンドケーキのおいしさは保証されたようなものです。

繰り返して言います。バターも卵も泡立てないでください。バターと卵がよく泡立っていれば、乳化していなくても一見なめらかに乳化しているように見えます。しかしそれは、泡立ったその泡立ちの中に水分の一部が取りこまれているわけで、すべての水分をバターが取りこんで、バターの脂肪分が強くつながっている本来の乳化とは違っているのです。

卵がすべて充分に強い乳化状態で混ざったら、重く固い手ごたえを感じるようになります。バターに等分量の卵が入るのだから、このバターはゆるく柔らかくなると思われるかもしれませんが、強く乳化していれば、温度が高くならない限りゆるくなることはありません。
また、分離したからといって粉を少し加えて混ぜるのはあまり意味がありません。分離した水分を粉にふくませてつないでも、分離が目に見えなくなるだけで、つながりの切れたバターどおしが再び強くつながるわけではありませんし、過度のグルテンが出てしまうだけさらによくなくなるだけです。
卵が乳化よく混ざったら、次は粉の混ぜ方です。

(次回に続きます。)


パウンドケーキの作り方




お菓子作りと科学的知識との関係を実際のお菓子作りで考えてみましょう。

どなたもご存知で、基本中の基本のお菓子ともいえるパウンドケーキを例にとってみます。
主原料である、バター、砂糖、卵、粉をほぼ同分量ずつ順番に混ぜるだけのシンプルなお菓子です。
何も知らず何も考えず、ただ混ぜていくだけだと、うまく混ざらなかったり、途中で分離したりします。なぜだかよく分らないけど、焼き上がりが固くなったり、口どけが悪くなったり、脂っこくなったり、フルーツを混ぜたら全部下に沈んでしまったりと、様々な失敗をしてしまいます。

このパウンドケーキの場合、最も大事なのはバターの性質です。
バターは、乳脂肪と全体の20%前後の水分とが乳化した状態で、つまり、分離していない状態で混ざり合っています。水と油は本来混ざらないのですが、つなぎ合った脂肪分の中に水分が点在しているような形で「乳化」という特殊な状態で混ざり合っているわけです。
この乳化の状態をこわさずに、つまり、分離させないで生地を混ぜ終えることがパウンドケーキ作りのすべてだといってもいいくらいなのです。
分離させてしまうと、ふくらみが悪くなって固くなったり、脂っこくなったり、フルーツを混ぜたら全部下に沈んだり、分離をつなぐために粉を混ぜ過ぎて、歯切れや口どけが悪くなったりと、様々なことが起きてくるわけです。

パウンドケーキの作り方は何種類かあります。代表的なのは、バターを柔らかくして、まず砂糖を混ぜ、次に卵を少しずつ混ぜ、最後に粉(+ベーキングパウダー)を混ぜるだけの作り方です。シュガーバッター法と言います。
この場合、バターと卵の分量がほぼ同量で、卵には多くの水分が含まれるのですから、バターに卵を混ぜていく段階で、よほど気をつけないと分離させてしまいます。おまけに、日本のバターは乳化力が弱く、卵は水分が多いので、分離させずに混ぜ終えることは実はとてもむずかしいことなのです。
バターの脂肪のつながりが切れてしまって水分をかかえきれず、分離してしまうわけです。では何に気をつければいいのでしょう。なぜ、分離したり、分離しなかったりするのでしょう。

ポイントは温度です。バターとそれに混ぜる卵の温度、そして作っている場所の室温に最大限の注意が必要となります。

ご存知のように、バターというのは温度によって状態が変わります。冷蔵庫に入っているような状態だと、かちかちに固まっています。そして室温に置いておくと柔らかくなって、混ぜてやるとクリーム状になります。また、熱いトーストにのせたり、フライパンに入れて火にかければ、液状になって脂と水に分離していきますね。

かちかちに固いバターに卵はもちろん混ざりません。また、溶け過ぎて脂と水に分離したものは、乳化の状態がこわれてしまっているわけで、さらに水分が加わって混ざるわけがありません。柔らかいクリーム状で、かつ、溶けてしまわないで乳化の状態をしっかり保ったバターでなくては、卵はうまく混ざっていかないわけです。

バターにもよりますが、私の経験では大体23℃から25℃くらいの温度です。加える卵の温度も同じ温度を保たなければなりません。そして、卵を一度に入れてしまうと、脂肪分のつながりが切れてしまって分離してしまうので、少しずつ少しずつ混ぜていかなければなりません。

ところが、そうして温度を保ち注意深くやっても、分離させてしまうことがあります。
それは、混ぜているうちに室温の影響を受けるからです。室温が低過ぎれば、混ぜているうちにバターは過度に固くなります。全体としてはいいあんばいのクリーム状に見えていても、目に見えない部分での中の一部が過度に固まっている場合があるのです。室温が高過ぎる場合も中の一部が溶けてしまっていることがあるわけです。
このようなバターの状態の時に卵が加わると、混ざりきらずに分離してしまいます。あっ、柔らか過ぎるな、固過ぎるなと思って、あわてて冷やしたり温めたりしても、それは一部分を過度に固めたり溶かしたりすることになって、効果はないわけです。
見た目ではほとんど分らないのです。分離してしまって初めて気がつくことになります。分離したらもう元には戻りません。ここがむずかしいところです。

では、どうしたらいいか、結論を言いますと、バターの温度、卵の温度、そして室温にも気をつけ、状態をよく見ながら、固くなっていかないか、柔らかくなっていかないかなど、どんな変化も見逃さないようにします。
そうして、変化に応じて、卵の温度をわずかに、あくまでもわずかに上げ下げしながら少しずつ少しずつ混ぜていきます。目に見えない部分も頭の中で自分がバターになったつもりに、卵になったつもりになってイメージ(想像)しながら、注意深く注意深く混ぜていくしかありません。

材料の性質、乳化とは何か、混ざるとはどういうことかなどをよく理解して、それらの知識を利用して、確たるイメージを頭の中につくっていくことが、物つくりには大事なことだということが分っていただけるでしょうか。


お菓子作りは科学?

Q: 科学とか理論とかあまり得意じゃないのですが、お菓子作りに科学的な知識は欠かせませんか?

A:そうですね、結論からいうとお菓子でも料理でも科学的知識はあったほうがいいと思います。
ただ間違ってはいけないのは、科学や理論が先にあって、それにもとづいてお菓子を作るわけではありません。そうするとしばしば変なものができたり、おいしくないものができたりしがちです。それだと、とても難しいことに感じたり、面倒くさいことに感じたりすることにもなってしまいます。
順序が逆なのです。ちょうど会話と文法のような関係に似ています。文法が先にあったわけではありません。
お菓子作りが先にあって、それを手助けするのが科学や理論なのです。強力な手助けとなって結果もよくしてくれるのですから、利用しない手はありません。

特に女性は理屈っぽいことが嫌いだというかたが多いようですが、思うほど難しいことではありません。お菓子作りの理論や物の性質が分かれば、失敗した時にもなぜ失敗したかが分かって、立て直しもきくし、色んな応用もできるようになります。
理科の実験や知的なゲームを楽しむつもりになれば、お菓子作りの楽しさ、面白さを倍増してくれるものだと思います。

実際にお菓子を作る時に、目に見えていることはわずかなのですが、その目に見えているわずかの情報から、その内側で何が起きているのかを、どう変化していっているのかを、イメージしてつかんでいくことが、物つくりには必要なのです。
そのイメージをつかむために、科学的知識が役に立つのです。目に見えないことが大部分なのだから、頭の中でイメージ(想像)するしかないからです。
そのような意味で、物つくりの作業とは頭の中の作業なのだと、私は思います。その頭から手に指令を送って、適切な手を加えていく、それに応じて物が変化をしていく、その変化をとらえて、また適切な手を加えていく、その連続が物つくりだと、私は考えています。
そこにこそ、物作りの面白さがあります。

ああして、こうして、こうするのだと、言われる通りに手を動かしているだけでは、ロボットと同じです。理屈がわかって、納得して、自分の頭でつくってこそ、「つくる」ということだし、本当の面白さ、楽しさがあると思います。実際、「あっ、そうなんだ!」と納得することは、とても気分のいいことなんです。

料理でも同じことだと思いますが、お菓子は特にシンプルです。お菓子の原材料は、砂糖と粉と卵とバターとその他の乳製品、果物とナッツ及びその加工品でほとんど成り立っています。主原料と言われるものは最初の4つなのです。そのわずか4種類の材料の分量や混ぜ方などのほんのちょっとした違いと、副材料との組み合わせなどによって、実に様々な多くのお菓子が作られています。
ですから、それらの材料の特徴、物理的性質、化学的性質を知っていることが、上手にお菓子を作るために重要であり、また、重宝でもあるということです。


りんごは小さい方がおいしい




写真は紅玉です。左側の大きい方は自然食品店で求めた有機栽培のりんごです。重さは約200グラム、価格は1個230円でした。小さい方は知人に産地で直接仕入れてもらったものです。重さは約100グラム、価格は1個20円でした。十分の一!流通経費がかかっていないとはいえ、あまりと言えばあまりです。

食べ比べてみました。

大きい方は色目もきれいで傷もありません。香りは乏しく、甘味はあるが、酸味は弱い。とてもジューシーですが、果肉は粗く、口の中で水分と口どけの悪い繊維とに分かれる感じです。、噛んでいるうちにくたびれてしまい、一個食べ終わるまでの間、まるで修行でもしているような気になります。お菓子にはとても使えるしろものではありません。

小さい方は赤い色は薄めで、傷や「サビ」といわれる果皮のざらつきも結構あります。香りはそこそこあり、酸味は強く、果肉は緻密で、水分と果肉のなじみがいい感じでした。強い酸味が味に深みと締まりを与えています。
100個ほどの小さなりんごの中に、赤い色がとりわけ薄く、ところどころが黄色くなっているものが数個あったのですが、それが最も香り高く美味しいものだったことをつけ加えておきます。


品質に見合った価格になっていないと思うのです。もちろん品質とはりんごの食べものとしての内容のことで、色合いや見た目のことではありません。観賞用ではないのですから。

このような小さなりんごや、色が悪いもの、傷やサビのあるものは売りものにならないということです。しかしながら、食べものとしてのりんごに、その大きさに何の意味があるのでしょう。
色をよくするために収穫前に葉を取って、その結果養分が実にいかなくなるなんて…。淡い赤に黄色がすじのようにさしこんでいるのも、なかなか綺麗なものです。
傷やサビだってなんということはありません。三日も見れば慣れてしまいます。
りんごは、葉を取らないと枝葉が触れて傷がつきやすくなるのだそうです。

ある農家の方の言葉として聞いたことですが、りんごに限らず、果物にはそれ本来の大きさというものがあるということです。無理に大きくするのは自然ではないということでしょう。そういえば、フランスのりんごは今の日本のりんごに比べると小ぶりのものが多かったように思います。
私の30数年の経験からも、すべてとは言いきれませんが、りんごは同じ品種のものならば、おおむね小さい方が美味しいといえます。そのうえ、小さいりんごの方が長持ちもするんですよ。