お菓子の冷凍

冷凍って良くないんじゃない?って声が聞こえてきそうですね。肉や魚や野菜などの生ものの冷凍から、ばさついていたり、繊維がこわれていたり、風味が抜けていたりするイメージを持つからでしょう。

でも、みなさんよくご存知の小豆の餡や乾物などを思い浮かべてください。このような、糖分が多いものや水分の少ないものは冷凍・解凍しても変化はほとんど感じられませんね。生の果物でもよく熟したマンゴーやパパイアなどはダメージが少ないことが分ると思います。 



お菓子の冷凍に関するシェソアの考え方はこうです。 


お菓子はもともと糖分の多いもので、基本的には冷凍に非常に向くものだといえます。もちろん、それなりの考え方、作り方をすることが前提です。何でもかでも冷凍庫にぶちこんで、冷凍できるというのは違います。効率のため、無駄を出したくないためにだけ、冷凍庫を利用する、そのために多少(?)まずくなるのは仕方がない、という考え方とは根本的に違います。


シェソアでは冷凍してもダメージは感じられない、冷凍してもまずくならない、あるいは一歩進んで、冷凍したほうがおいしくなる(?)、という場合だけ、冷凍できるという言葉を使います。 


かつて冷蔵庫というものができ、冷蔵技術というものがすすんで、たくさんの洋生菓子が作られ、また売られることが可能になりました。それまでは乾いた焼き菓子の類か、バタークリームやチョコレートクリームのケーキ、それも糖度の非常に高いものしかなかったわけです。


冷蔵庫でも当初は乾燥するとか、風味が飛ぶとか、冷蔵は良くないよといった意見もあったことでしょう。でも今や、冷蔵庫なしではショートケーキもババロアもムースも、いや、ほとんどの洋生菓子は作ることも売ることもできません。冷蔵庫というものを、冷蔵という技術を利用して、おいしいものを作るという考え方に変わってきたのです。 


シェソアは冷凍庫というもの、冷凍という技術に対しても、それと全く同じ考え方をとります。冷凍庫をひとつの道具として、冷凍庫を利用して良いものが作れるなら、積極的に利用する。もし良いものができないのなら頑として使わない、ということです。 


冷蔵庫や冷凍庫と同じように、ひとつの道具として、たとえば、電動のミキサーというものがあります。泡立てたり、混ぜたりするものですが、たいそう便利な物で、ある程度の量を作るには欠かせないものです。この電動ミキサーも、たとえばスポンジを作るときなど、手で泡立てるより良いものができるなら、もちろんすすんで使います。が、もし物によって手で泡立てるほうがよりいいものができるなら、多少大変でも手で泡立てる方法をとります。


卵の泡立てはミキサーのほうが良くても、最後に粉を混ぜるのは手で混ぜるほうがよりよい結果がでるなら、手で混ぜる方法をとるということです。

手と遜色ない動きができる、あるいは手で混ぜるよりいい結果が出る、そんなミキサーが開発されるまでは、大変だろうが効率が悪かろうが、相変わらず手で混ぜる方法をとります。 

冷凍庫、冷凍技術に対する考え方も、根本的にはこれと全く同じなのです。



では、冷凍を利用しておいしいお菓子を作るにはどうしたらいいのでしょう。


科学的にあまりややこしいことは置いておいて、分りやすくシンプルに考えてみましょう。 


冷凍することで何が良くなくなるのでしょうか。単純に言えば、食品中の水分が凍り、氷の結晶が膨張していく過程で組織がこわれ、水分は分離した状態で凍り、解凍した時、組織も水分も元に戻るわけではないからと考えられます。 


機械技術の進歩はめざましいものがあり、冷凍技術の改良により、冷凍によるダメージを少なくする方法もあるわけですが、手づくりの作り手の立場からは、まずお菓子の固形分量を増やし、水分量を減らす、水分の分離を減らすことが考えられます。それから、それでも分離する水分をうまく取り込むことを考えます。


このことをふまえて、具体的な例をあげてみます。 


まず、水分の少ないもの、たとえばクッキー類などの乾いた焼き菓子は基本的には冷凍可能ではあるのですが、解凍する時に結露等で湿気を含んだりして、あまりおすすめではありません。


パウンドケーキなどのやや水分量の多い焼き菓子は、配合や作り方にもよりますが、基本的には冷凍しないほうが良いと思われます。


タルトやパイなどもそうですが、これらの焼き菓子のほとんどは焼く前の状態で冷凍することは全く問題ないので、「焼く前の状態で成形冷凍、焼いたら冷蔵も冷凍もしない」、これが基本です。 


どうしても冷凍にしたい事情がある場合は、結露しないような対策をとります。

タルトやパイなどは中のフィリングを冷凍可能なものにする、分離する水分は生地に含ませない、あるいは別のものに含ませる、といった対策をとります。

こういった粉を主としたお菓子や生地などは、冷蔵保存をすると澱粉の老化を早めて良くありません。どうしても長期保存をするなら、冷凍のほうが向いているといえます。



一方、生菓子のほとんどは冷凍できます。 


生菓子に使うもので冷凍できないものの代表は、生のフルーツ、ホイップクリーム、カスタードクリームです。生のフルーツはピューレにするか火を通す、ホイップクリームやカスタードクリームは他のクリームやゼラチンなど、何らかのものを適切な量加え、糖分や脂肪分などの固形分量を増やしてあげれば冷凍可能となります。 


台となるスポンジ類では、目が細かくしっとりふわふわなものはあまり冷凍に向きません。目がこわれやすく、溶けてぐちゃぐちゃになったり、また、全体に縮んだりすることがあります。


別立てのビスキュイなど、目が粗くハードでよく焼き上げて水分の少ないもの、また、糖度の高いスポンジが冷凍に向いています。目の粗いスポンジでは、冷凍によって、より歯切れよく口溶けがよくなるようにも思えます。 


クリームやムースなども基本は同じです。水分量を減らす、固形分量を増やす、わずかに分離する水分を効果的に受け止める工夫をします。 



作ったケーキを冷蔵庫や冷蔵ショーケースに入れておいても、食感も味わいも時間とともに、一日の内にでもどんどん変化していきます。朝と昼と夕方とでは違った印象を受けることもしばしばあります。


冷凍のメリットは長く保存できるということではありません。おいしさを、おいしい状態を持続して保存できるということなのです。冷凍を利用しておいしいケーキを作ることができれば、一度作ったものを比較的長い期間に渡って、最もおいしい状態を最もおいしいタイミングで食べる、食べてもらうことが可能になります。 


冷凍のメリットを生かし、デメリットをむしろ逆手にとった工夫をすることで、冷凍を利用しておいしいケーキを作れるだけでなく、冷凍したほうがよりおいしくなるケーキを作ることもできるわけです。



シェソアってどんな意味?

「シェソア」は「自分のところで」といった意味です。「あー、自分のところでやるからね」とよく言われますが、ちょっと違います。フランスから戻ってきて、フランス料理・菓子の教室を立ち上げたのは今から36年前になります。その名前を付ける時に、これからやっていこうとすること、この仕事に対する自分の想いを名前にこめたいと思ったのです。

私が生まれたのは日本が戦後の荒廃からようやく立ち直り始めたころでした。それから急速に豊かになり、高度経済成長、バブル経済とその崩壊を経て今に至る時期に育ったわけです。
食べ物の切り口で言えば、充分な食べ物もなかった時代から、インスタント食品が流行し、ファーストフードの店やファミリー・レストランなどの外食産業が隆盛をきわめ、加工調理済食品が大量に出回ってきた時期と言うことができます。
私は食べ物に関するこの間の歴史を、「食べ物の手当てを他人(ひと)の手に渡してきた時代」ととらえています。

自分自身と自分の家族の食べ物の手当てをすることは、ひとが生きていくために欠かせない最も大事なことですが、ただ単に身体を作っていくのに大事だというだけではありません。
ひとは食べ物の手当てをすることによって、食べ物を通じて、ある、とても大事なものを伝えているのだと思います。赤ん坊にお乳を与えることを想像してみてください。
食べ物を自分が与えなければ、この子はいのちを永らえることはできない。そのかけがえのない食べ物を通じて、同時に、その子に対する強い想い、すこやかに育ってほしいという想いや、私にとってあなたは大事なかけがえのないものという想いや、色んな想いを伝えているのだと思います。
その想いのかけはしとなっているのが、ほかならぬ食べ物だということに意味があるのです。
そのことこそが、身体だけではない、ひとの情緒を育てるのに最も大事なことだと私は考えています。それはまた、母と子の絆を強め、家族の絆を強め、ひとが自信を持って生きていくための基礎をつくっていくことにつながっていきます。そして、それは赤ん坊に対してだけではなく、家族に対して、自分の大事なひとに対して、また自分自身に対しても言えることだと思っています。

私は今から41年前にフランスへ渡り、5年弱の間、フランス料理・菓子を学び、たくさんの貴重な経験をすることができました。料理や製菓の知識・技術を学んだことはもちろんですが、フランスで学んだ最も大きなこと、それは一言でいえば、人間と食べ物との関わり方のことでした。
世界に冠たるフランス料理・菓子の世界はそれは素晴らしいものでした。フランスの食べ物には人を喜ばせ、元気づけ、感動させる充分な力がありました。料理、お菓子、パン、ワイン、すべての食べ物が限りない喜びと救いを与えてくれました。「おいしい」とただ口の中が喜ぶだけではない、身体中が「おいしい」といって喜んでいるような感銘を受けたのです。
それだけではありません。フランスで生活をして受けた最も大きな感銘は、そこに、食べ物とまじめに関わっているひとびとの暮らしがあったことでした。
そこには、食べ物を中心とし、食べ物をせいいっぱい大事にし、家族で食事を楽しむことを一番の喜びとしている家族の生活がありました。そしてそれを支えるに充分な「いのち」の力をもった食べ物がありました。作る人と食べる人、売る人と買う人、教える人と学ぶ人、両方それぞれが食べ物のことをおろそかにしない関係がありました。それが世界に冠たるフランス料理の礎(いしずえ)となっていることに気づかされたのです。
彼らは食べ物の手当てをすることを、際限なく他人(ひと)の手に渡すようなことはしていない、自分自身の手に、自分達の手にしっかりと握っているようでした。
そのような食べ物との関わり方こそが、私たちに限りない喜びをあたえてくれることに気づかされたこと、それがフランス滞在で得た最大の収穫でした。

食べ物の仕事をする為にフランスへ行った自分に、その食べ物が与えてくれた幸せな思いを人々に味わわせてあげたい、食べ物の手当てをそれぞれが自らの手に取り戻すためのお手伝いをしたい、その為に自分が身につけたものを役に立てたい、それがシェソアのスタートでした。
私はフランスでの貴重な経験を通して、食べ物の手当ては、自分自身で、自分の家族で、「自分のところで」、するほうがよい、そう確信したのです。それが、「シェソア」と名づけた理由です。

抹茶と小豆のパウンドケーキ(3)

(焼き方)
さて最後の難関です。難関といっても、オーブンがこのお菓子に合っていればなんということはないのですが、おいそれとオーブンを買い替えるわけにはいかないのが難しいところです。

7.オーブンは高めの温度に設定して予熱を充分にとります。オーブンによりますが、220°~230°位、少なくとも30分は予熱しておいてください。そこへ寝かせておいた型をオーブンに対して縦になるように入れます。つまり、型の長い辺が自分の左右に、短い辺が前後になるようにです。オーブン庫内の温度を下げないよう、扉の開閉は常に手早くおこないます。
3~5分経ったら温度を160°位に下げます。それから20分位焼いて、型の前後を入れ替えます。さらに20分位焼きます。オーブンの上からの熱の当たり具合(上火)が強過ぎて表面が乾燥して固くならない限り、包丁で切り目を入れるなどする必要はありません。オーブンの温度もお菓子本体の温度もなるべく下げたくないのです。

このようなヴォリュームのあるお菓子を焼く時は、オーブンには火力が充分強いことと上火が強くなく下からの熱の当たり具合(下火)が強いことが求められます。この場合の火力とは温度のことではなく、熱量のことです。この違いは車を運転する方でしたら速度と馬力の違いだと思えば分りやすいでしょう。 
熱量が充分にないとお菓子のふくらむ勢いが弱くなります。、充分にふくらむ前に周りが乾燥して固くなり小さく締まった焼き上がりになるわけです。それを避けるためにも予熱は充分にとって熱量を確保するようにします。生地の中央を大きく窪ませて火の通りを助けてやることも重要なわけです。また、上火が強すぎると表面が先に乾燥して固くなり、ふくらもうとするのを押さえこんで同じような結果になってしまいます。
家庭用のオーブンでは温度調節はできても熱量を調節することは難しいですね。オーブンによっていちがいには言えませんが、家庭用のオーブンなら電気オーブンよりガスオーブンのほうがいいかもしれません。電気オーブンなら出来れば200ボルトのものにしたいところです。
また、コンベクションオーブンでファンの風がお菓子の表面に強く当たる場合は、なるべく風の当たりが弱くなるような場所(段)を探したり、上の段に天板を置くなどの工夫が必要になります。
色んなお菓子を焼いた時にお菓子の底より上部のほうが色付く傾向があるようでしたら、下火が弱いわけです。あらかじめ天板をオーブンに入れて熱くしておく、途中で上の段に天板を置くなどして対処します。逆に底のほうがどうしても焦げるといった場合には途中で天板をもう一枚下に敷くなどして対処します。オーブンによって様々ですので、そのオーブンに応じたいい方法を探していくしかありません。
温度や焼き時間もオーブンによって様々ですので、何度で何分と言い切ることはできないのです。

(焼き上がり)
8.焼けるにしたがってふくらみ、表面の中央に縦に割れ目が出来て、中央が広がるように盛り上がり、その部分が少し色づくまで焼きます。その中央部分を押してみて充分な弾力を感じ、表面の湿った感じがなくなったら焼き上がりです。
金串等をつきさしてみて何もくっついてこなければいいという見方は、火が通っているかどうかの見極めにはなりますが、その焼き加減でいいかどうかは、最終的には食べてみるしかありません。ふくらみ具合、焼き色、弾力等々、あらゆることを確認して、そして食べてみて判断して次に生かし、調整しながら、そうして一番いい焼き方、焼き加減を見つけていくわけです。
オーブンから取り出し、2~3分待ってから型から取り出します。網にとって、型紙をつけたまま冷まします。シロップやお酒などを塗る場合は熱い内に塗ってください。熱い内のほうが中にしみこみやすいからです。
冷めたらビニール袋などに入れ密封して乾燥を防ぎ、暗い所に置くか、箱や缶に入れて光が当たらないようにして常温で保存します。一日置いてからが食べごろです。

説明してきましたように、パウンドケーキをおいしく作るには、まず強い乳化の状態を作ること、そしてグルテンを極力出さないよう粉を混ぜること、それから、冷蔵庫で寝かせて焼くこと、あとはオーブンの使い方、これらのことが最も大事なこととなります。
パウンドケーキ作りには基本となる4つの主材料の性質、乳化のこと、温度のこと、混ぜるということ、手を加えることによる材料の変化の見きわめ、オーブンの使い方など、お菓子作りに重要な基礎の多くが含まれています。
パウンドケーキがうまくできるようになれば、お菓子作りの基本の重要な部分が分かったと言えると思います。外国語学習に例えて言えば、基本単語数百をマスターしたようなものでしょう。その後の進歩は格段のものになると確信します。


抹茶と小豆のパウンドケーキ(2)

(グルテンを出さない)
4.卵がすべて充分強い乳化状態で混ざったら、次にふるっておいた粉類を混ぜます。乳化の次に大事なことはいかにグルテンを出さないかということです。
「グルテンを出す」とは変な言い方ですが、小麦粉に含まれる蛋白質に水分が作用して、混ぜる、こねるなどの力が加わることによって、粘りと弾力のあるグルテンが形成されることを、ここでは「グルテンを出す」と言うことにします。

パウンドケーキの場合、グルテンが過度に出ると焼き上がりの生地に「ひき」が出ます。噛む歯と顎に力がいるようになり、また口どけが悪くなります。口どけが悪いと味も希薄になってしまいます。パウンドケーキの優しい歯ざわり、心地よい口どけ、粉やバターなどのシンプルな材料のその味わいをなくしてしまいます。また、焼き縮んで固くなる原因にもなりますし、ひどい場合には出来そこないのパンのようになってしまいます。
粉を加えてただ混ぜるだけでもグルテンは出ます。グルテンを極力出さないように粉を混ぜる必要があります。グルテンが出るには水分と力が必要なのですから、水分と力の影響を出来るだけ与えないようにしなければなりません。
そのためにもまず乳化が最も大事です。バターに卵まで混ぜ終わったものが充分強く乳化していれば、水分は脂肪分によって包みこまれているわけですから、粉に対する水分の影響が少なくなり、グルテンが出にくくなります。乳化が不充分であれば分離している水分によってグルテンが非常に出やすくなります。
バターや卵が泡立ってしまって乳化しているように見えているだけ、あるいは少量の粉でつないで乳化しているように見えているだけでは駄目だということがお分りでしょう。

グルテンは温度が低いほど出にくいということがわかっていますので、粉類は冷蔵庫で冷やしておきます。

乳化がうまくいっていれば、次は混ぜ方です。粉に出来るだけ力を与えない、負荷を加えない混ぜ方をしてあげなければなりません。粉類は一度に加えます。少しずつ加えて混ぜると、粉を混ぜ終わった時には、最初の段階で混ぜた粉は混ぜ過ぎの状態になっているわけですから。
固さのあるものに混ぜるときは、粉は原則一度に加えます。水分の多いもの、液状のものに混ぜるときは、一度に加えると粉のだまが出来て混ざらなくなるので、例外的に何度かに分けて加えて混ぜるわけです。
 
粉を一度に加えたら、へらで切り混ぜます。決して練ったりこねたりしないようにします。乳化して混ざっているバター、砂糖、卵の固まりを切り分けるように混ぜます。この固まりを小さく寸断していく、その寸断された小さなかたまりに粉がくっついて混ざっていくイメージです。
これが大きな団子になっていかないよう、小さく小さく分かれていくように混ぜます。粉はボールの底に沈んで混ざりにくくなりますから、時々ボールの底にたまった粉を大きくすくいあげて上に持ってくるようにします。
粉の8割位が混ざっていくと、固まりどおしがくっついて大きな団子になろうとします。そして細かく切り分けることができなくなります。そうなったら、全体を2つに切って上下を入れ替えるような混ぜ方をします。
粉の白いのがちょうど見えなくなったらストップです。くれぐれも混ぜ過ぎないよう、へらを当てる回数が少なくて混ざるほどいいと思ってください。このあとなお小豆を加えて混ぜますので、本当にぎりぎりの混ぜ方でいいのです。つやが出るほど混ぜてはいけません。
まだもう少し混ぜたいかなと思うくらいのところで小豆を加えて、やはり切り混ぜます。もう出来るだけ混ぜない、小豆が全体に散らばるだけでいいのです。

乳化が完璧にいっていれば、粉に水分が影響せずにグルテンは出ないのではないかと思われますが、現実にはやはり混ぜ方が悪いと違いが出ます。いかにグルテンを出さずに均一に混ぜるかが腕の見せどころかもしれません。
 
(型入れ)
5.混ぜ終わったら直ちに型に入れます。340g量って入れます。残りの生地は小さなカップなどに小分けして焼くといいでしょう。
型に入れたら、中央を大きく窪ませることが重要です。型の底と4つの壁に2㎝位の厚みの生地がある感じです。つまり小さなパウンド型が中にすっぽり入るくらいに窪ませます。「エーッそんなに!」というほどです。
なぜそんなに窪ませるかというと、火の通りをよくするためです。小さな型で焼く場合はその必要はありませんが、大きな型で焼く場合はどうしても火の通りが悪くなってしまいます。中央を大きく窪ませないと、中心まで火が通らない内に外側が焼き固まってしまい、中からふくらもうとするのを押さえこんでしまいます。ふくらみが悪くなって固く締まったような焼き上がりになりがちだからです。

(寝かせる)
6.型入れしたら必ず冷蔵庫で寝かせます。決してすぐに焼かないでください。混ぜ終わった生地は充分な乳化をさせ、粉の混ぜ方に注意をしたとしても、やはり多少のグルテンは出ているでしょう。それを寝かせることによって落ち着かせます。少し時間をおくとグルテンの結びつきが弱くなる性質を利用するわけです。
寝かせずにすぐ焼くと、やはり「ひき」が出て口どけも悪くなります。また、結果として中の生地にむらが出来たり、大きな気泡が所々に出来てきめの粗いものになったりしがちです。
冷蔵庫で寝かされ冷やされることによって、生地は落ち着きグルテンはゆるみます。強く乳化したバターは水分を抱えこんだまま冷やされて固くなり、安定した乳化の状態を保ちます。
寝かせる時間は少なくとも3時間くらい、半日でも1日でも結構です。乾燥しないように密封して冷蔵庫に入れておきます。
この頃のベーキングパウダーはすぐ焼かないとふくらみが悪くなるなどということはないようです。何の問題もありません。

また、このように生地に小豆を入れたり、あるいはレーズンなどのフルーツなどを入れた時に、それが底に沈んでしまったという話をよく聞きます。乳化がうまくいっていて、冷蔵庫で充分に寝かせたものであれば、そんなことは起こりえません。フルーツ等に粉をまぶすなども、全く必要ないのです。
混ぜ終わったばかりの生地は温度が上がっていて柔らかくなっています。すぐにオーブンで温められるとバターはすぐに溶けだそうとします。その上に乳化がうまくいっていないと、脂肪分と水分が分離している状態で温まるわけですから、軽い脂肪分は上に浮こうとし、重い水分は下に沈もうとします。それに引きずられてフルーツ等の重いものは底に沈むのではないかと考えられます。

(次回に続きます。)


抹茶と小豆のパウンドケーキ(1)




抹茶と小豆のパウンドケーキ。こういう和素材のケーキは滅多に作りませんが、思うところあって作ってみました。

小豆の香りは心地よいものですが、強い香りではないので、抹茶の強い香りに消されてしまって、何がはいっているのだか分らない味になってしまいます。かといって抹茶の量や風味をおさえれば、今度は色ばかりで抹茶を使う意味が分らなくなってしまいます。バランスをとって味を創り出すのがなかなかむずかしいケーキですね。

また、渋みはケーキに合わないので、注意が必要です。渋みは他の味を消してしまいます。何か食べたあと、口の中をリセットする、さっぱりさせる効果があります。ですから、何かと組み合わせる場合は相手の味わいを消してしまいがちなのです。
フランス菓子でも白ワインやシャンパンをお菓子に使うことはあっても、渋みのある赤ワインを使うことはあまりありません。数少ない例として、洋なしやプラムの赤ワイン煮や赤ワインゼリーなどがありますが、その場合も渋みの少ない赤ワインを使うことがポイントとなります。
抹茶のケーキも渋みの少ない抹茶を使うことがポイントとなりそうです。生クリームや蜂蜜やチョコレートなどを使って渋みをやわらげてあげるほうがいいかもしれません。

(作り方)
作り方はシンプルなパウンドケーキと何ら変わりません。

発酵バター       110g  よつ葉発酵バター
微細グラニュー糖   105g
はちみつ           5g
卵黄                40g
卵白                            70g
薄力粉                      120g  ドルチェ/江別製粉
ベーキングパウダー    3g  ローヤル
抹茶                        7~8g
ゆで小豆      120~150g  (水切り後重量)

シュガーバッター法で作ります。バター、砂糖、卵、粉の4つの主材料を順にまぜていくだけです。
ポイントは2点です。一つ目はバターの乳化をこわさずに砂糖と卵を混ぜること、これが最も大事です。そして二つ目は粉のグルテンを出さないように混ぜること。とにもかくにもこの2点を完璧にすること、これがパウンドケーキをおいしく作るコツです。

(下準備)
1.まず下準備です。
ゆで小豆はざるなどにあけて水気をよく切っておきます。
卵はよく溶いて常温に戻しておきます。バターも常温に戻しておきます。温かい所に置くなどして、やや高めの23°~25°にしておきます。バターは決して溶かさないようにしてください。室温は20°~25°が適温です。室温が15°以下、27°以上ではうまくいきにくいと考えてください。
冷暖房の風は直接あたらないよう注意します。
薄力粉とベーキングパウダーと抹茶をよく混ぜてふるい、冷蔵庫に入れておきます。
パウンド型(長さ15cm、幅8㎝、高さ6cm、容量600cc)にグラシン紙などの型紙を敷きこんでおきます。

(とにもかくにも乳化が大事)
2.ボールに入れた適温のバターを木べらで混ぜてクリーム状にします。ホイッパーではなく木べらです。固くしっかりしたものであればゴムべらでも結構です。クリーム状になったら砂糖とはちみつを加えて混ぜます。泡立ててはいけません。
バターの中には8割位の脂肪分と2割位の水分があります。油中水滴型の乳化といいますが、脂肪分が水滴を包むような格好で、脂肪分は切れずにどこもつながっている状態で水分をかかえこんで乳化をしています。
バターを泡立ててしまうと、この脂肪分の中に空気が入り込んで膨張し、空気がはいればはいるほど脂肪分のつながりは引き伸ばされて薄く薄くなってしまいます。乳化が弱くこわれやすくなっていくわけです。その段階では乳化を保っていても、次に加える卵の水分を抱え込みにくくなって、乳化がこわれやすくなってしまいます。
バターも泡立てませんし、砂糖を加えてからも泡立てません。時間をかけてただよく混ぜるだけです。スタンドミキサーやハンドミキサーを使う場合は速度がかなり遅いことが条件です。速度が速いと泡立ってしまいますので、速度が遅くならないミキサーなら、手で混ぜてください。
パウンドケーキの作り方はいくつかありますが、この作り方ではベーキングパウダーでふくらませますので、バターも卵も泡立てる必要はないのです。

3.砂糖が充分に混ざったら卵を少しずつ加えて混ぜます。慣れない内は10分の1くらいずつ加えて混ぜるのがいいでしょう。
ここが最大のポイントです。少しの卵を加えたら、木べらで混ぜていきます。やはり泡立てないように混ぜます。乳化させる混ぜ方は言葉ではなかなか伝えにくいのですが、この加えた卵にバター全体をいきなり混ぜるのではなく、卵を少しずつ少しずつバターで包み込むような混ぜ方をします。

バターに卵が取りこまれて乳化すれば、表面はなめらかになり、混ぜる手に重さ、固さを感じるようになります。加えた卵の内のほんの少しがバターに取りこまれて乳化したその部分に、また少しの卵が取りこまれて乳化し、、そうして次々に乳化しながら混ざっていくような混ぜ方です。
乳化していない部分にさらに卵が混ざろうとすると、乳化が弱くなったり、乳化がこわれて分離したりするわけです。卵にバターを混ぜるのではありません、バターに卵を混ぜるのです。

そうして加えた卵が完全に乳化してから、次の卵を加え、同様に混ぜていきます。
注意するべきは温度と混ざったものの固さです。混ざったものは室温の影響を受けて温度が下がったり上がったりします。混ざったものの温度が20°より下がっていくようであれば、次に加える卵を湯せんにつけて温めて加えます。室温が低ければ、卵の温度は27°位までは温めて大丈夫です。もし混ざったものの温度が25°より上がっていくようであれば、卵の温度を逆に下げてあげなければなりません。その場合は20°くらいまでは下げて大丈夫です。
いずれにしても、乳化して混ざったものが急に固くならないか、あるいは急に柔らかくならないかなどに細心の注意をはらって、卵の温度を調節しながら混ぜていきます。
温度を調節するために、混ぜているボールのほうを温めたり冷やしたりするのは避けたほうがいいでしょう。バターは一部分でも過度に温まったり冷えたりすると乳化を悪くするからです。
いずれの段階でもバターは決して溶かさないでください。いったん溶けたバターは再び固まっても良い乳化の状態に戻ることはありません。
パウンドケーキのように、バターと卵が同じ分量である場合は完璧に乳化させるのは簡単ではありません。正しい混ぜ方を知らなければ、ほとんどの人が分離させてしまうくらいむずかしいものです。しかし、この乳化がうまくいけば、パウンドケーキのおいしさは保証されたようなものです。

繰り返して言います。バターも卵も泡立てないでください。バターと卵がよく泡立っていれば、乳化していなくても一見なめらかに乳化しているように見えます。しかしそれは、泡立ったその泡立ちの中に水分の一部が取りこまれているわけで、すべての水分をバターが取りこんで、バターの脂肪分が強くつながっている本来の乳化とは違っているのです。

卵がすべて充分に強い乳化状態で混ざったら、重く固い手ごたえを感じるようになります。バターに等分量の卵が入るのだから、このバターはゆるく柔らかくなると思われるかもしれませんが、強く乳化していれば、温度が高くならない限りゆるくなることはありません。
また、分離したからといって粉を少し加えて混ぜるのはあまり意味がありません。分離した水分を粉にふくませてつないでも、分離が目に見えなくなるだけで、つながりの切れたバターどおしが再び強くつながるわけではありませんし、過度のグルテンが出てしまうだけさらによくなくなるだけです。
卵が乳化よく混ざったら、次は粉の混ぜ方です。

(次回に続きます。)


パウンドケーキの作り方




お菓子作りと科学的知識との関係を実際のお菓子作りで考えてみましょう。

どなたもご存知で、基本中の基本のお菓子ともいえるパウンドケーキを例にとってみます。
主原料である、バター、砂糖、卵、粉をほぼ同分量ずつ順番に混ぜるだけのシンプルなお菓子です。
何も知らず何も考えず、ただ混ぜていくだけだと、うまく混ざらなかったり、途中で分離したりします。なぜだかよく分らないけど、焼き上がりが固くなったり、口どけが悪くなったり、脂っこくなったり、フルーツを混ぜたら全部下に沈んでしまったりと、様々な失敗をしてしまいます。

このパウンドケーキの場合、最も大事なのはバターの性質です。
バターは、乳脂肪と全体の20%前後の水分とが乳化した状態で、つまり、分離していない状態で混ざり合っています。水と油は本来混ざらないのですが、つなぎ合った脂肪分の中に水分が点在しているような形で「乳化」という特殊な状態で混ざり合っているわけです。
この乳化の状態をこわさずに、つまり、分離させないで生地を混ぜ終えることがパウンドケーキ作りのすべてだといってもいいくらいなのです。
分離させてしまうと、ふくらみが悪くなって固くなったり、脂っこくなったり、フルーツを混ぜたら全部下に沈んだり、分離をつなぐために粉を混ぜ過ぎて、歯切れや口どけが悪くなったりと、様々なことが起きてくるわけです。

パウンドケーキの作り方は何種類かあります。代表的なのは、バターを柔らかくして、まず砂糖を混ぜ、次に卵を少しずつ混ぜ、最後に粉(+ベーキングパウダー)を混ぜるだけの作り方です。シュガーバッター法と言います。
この場合、バターと卵の分量がほぼ同量で、卵には多くの水分が含まれるのですから、バターに卵を混ぜていく段階で、よほど気をつけないと分離させてしまいます。おまけに、日本のバターは乳化力が弱く、卵は水分が多いので、分離させずに混ぜ終えることは実はとてもむずかしいことなのです。
バターの脂肪のつながりが切れてしまって水分をかかえきれず、分離してしまうわけです。では何に気をつければいいのでしょう。なぜ、分離したり、分離しなかったりするのでしょう。

ポイントは温度です。バターとそれに混ぜる卵の温度、そして作っている場所の室温に最大限の注意が必要となります。

ご存知のように、バターというのは温度によって状態が変わります。冷蔵庫に入っているような状態だと、かちかちに固まっています。そして室温に置いておくと柔らかくなって、混ぜてやるとクリーム状になります。また、熱いトーストにのせたり、フライパンに入れて火にかければ、液状になって脂と水に分離していきますね。

かちかちに固いバターに卵はもちろん混ざりません。また、溶け過ぎて脂と水に分離したものは、乳化の状態がこわれてしまっているわけで、さらに水分が加わって混ざるわけがありません。柔らかいクリーム状で、かつ、溶けてしまわないで乳化の状態をしっかり保ったバターでなくては、卵はうまく混ざっていかないわけです。

バターにもよりますが、私の経験では大体23℃から25℃くらいの温度です。加える卵の温度も同じ温度を保たなければなりません。そして、卵を一度に入れてしまうと、脂肪分のつながりが切れてしまって分離してしまうので、少しずつ少しずつ混ぜていかなければなりません。

ところが、そうして温度を保ち注意深くやっても、分離させてしまうことがあります。
それは、混ぜているうちに室温の影響を受けるからです。室温が低過ぎれば、混ぜているうちにバターは過度に固くなります。全体としてはいいあんばいのクリーム状に見えていても、目に見えない部分での中の一部が過度に固まっている場合があるのです。室温が高過ぎる場合も中の一部が溶けてしまっていることがあるわけです。
このようなバターの状態の時に卵が加わると、混ざりきらずに分離してしまいます。あっ、柔らか過ぎるな、固過ぎるなと思って、あわてて冷やしたり温めたりしても、それは一部分を過度に固めたり溶かしたりすることになって、効果はないわけです。
見た目ではほとんど分らないのです。分離してしまって初めて気がつくことになります。分離したらもう元には戻りません。ここがむずかしいところです。

では、どうしたらいいか、結論を言いますと、バターの温度、卵の温度、そして室温にも気をつけ、状態をよく見ながら、固くなっていかないか、柔らかくなっていかないかなど、どんな変化も見逃さないようにします。
そうして、変化に応じて、卵の温度をわずかに、あくまでもわずかに上げ下げしながら少しずつ少しずつ混ぜていきます。目に見えない部分も頭の中で自分がバターになったつもりに、卵になったつもりになってイメージ(想像)しながら、注意深く注意深く混ぜていくしかありません。

材料の性質、乳化とは何か、混ざるとはどういうことかなどをよく理解して、それらの知識を利用して、確たるイメージを頭の中につくっていくことが、物つくりには大事なことだということが分っていただけるでしょうか。


お菓子作りは科学?

Q: 科学とか理論とかあまり得意じゃないのですが、お菓子作りに科学的な知識は欠かせませんか?

A:そうですね、結論からいうとお菓子でも料理でも科学的知識はあったほうがいいと思います。
ただ間違ってはいけないのは、科学や理論が先にあって、それにもとづいてお菓子を作るわけではありません。そうするとしばしば変なものができたり、おいしくないものができたりしがちです。それだと、とても難しいことに感じたり、面倒くさいことに感じたりすることにもなってしまいます。
順序が逆なのです。ちょうど会話と文法のような関係に似ています。文法が先にあったわけではありません。
お菓子作りが先にあって、それを手助けするのが科学や理論なのです。強力な手助けとなって結果もよくしてくれるのですから、利用しない手はありません。

特に女性は理屈っぽいことが嫌いだというかたが多いようですが、思うほど難しいことではありません。お菓子作りの理論や物の性質が分かれば、失敗した時にもなぜ失敗したかが分かって、立て直しもきくし、色んな応用もできるようになります。
理科の実験や知的なゲームを楽しむつもりになれば、お菓子作りの楽しさ、面白さを倍増してくれるものだと思います。

実際にお菓子を作る時に、目に見えていることはわずかなのですが、その目に見えているわずかの情報から、その内側で何が起きているのかを、どう変化していっているのかを、イメージしてつかんでいくことが、物つくりには必要なのです。
そのイメージをつかむために、科学的知識が役に立つのです。目に見えないことが大部分なのだから、頭の中でイメージ(想像)するしかないからです。
そのような意味で、物つくりの作業とは頭の中の作業なのだと、私は思います。その頭から手に指令を送って、適切な手を加えていく、それに応じて物が変化をしていく、その変化をとらえて、また適切な手を加えていく、その連続が物つくりだと、私は考えています。
そこにこそ、物作りの面白さがあります。

ああして、こうして、こうするのだと、言われる通りに手を動かしているだけでは、ロボットと同じです。理屈がわかって、納得して、自分の頭でつくってこそ、「つくる」ということだし、本当の面白さ、楽しさがあると思います。実際、「あっ、そうなんだ!」と納得することは、とても気分のいいことなんです。

料理でも同じことだと思いますが、お菓子は特にシンプルです。お菓子の原材料は、砂糖と粉と卵とバターとその他の乳製品、果物とナッツ及びその加工品でほとんど成り立っています。主原料と言われるものは最初の4つなのです。そのわずか4種類の材料の分量や混ぜ方などのほんのちょっとした違いと、副材料との組み合わせなどによって、実に様々な多くのお菓子が作られています。
ですから、それらの材料の特徴、物理的性質、化学的性質を知っていることが、上手にお菓子を作るために重要であり、また、重宝でもあるということです。